島の浦物語
「スター☆にしきの そこに島があるかぎり、島野浦編」が2011年6月にNHKで放送されたが2014年3月
に「もう一度会いたいスペシャル」で再び島浦が放送された。
島を挙げての大騒動に大笑い、涙もありの楽しい番組であった。この番組は「今はいったんお休み」となって
いるが、また始まるのを期待したい。
私の若かりし頃、島の浦出身の「Sさん」に聞いた話がある。
Sさんは話が上手であった。私はよく「Sさんの話は、聞いちょると情景が目に浮かぶようじゃ。」と褒めたが、
Sさんはいつも照れ隠しの曖昧な笑顔を見せた。
Sさんがまだ若い頃、対岸に(北浦あたりか?)海女の集団が出稼ぎに来ていた。
その中の海女さんの一人と島浦の漁師の若者が恋仲になった。
若者は夜になると小船でその海女さんに会いに行った。島の浦から対岸までギッチラ、ギッチラ艪(ろ)を
漕いで2時間ほどかかったが、毎晩船を出した。
そのうち海女の集団は故郷に帰ったか、別の漁場に移っていったのかはわからないが、
どこかへ去っていった。
私はそこまで聞いて、当然、「その後どんげなったと?」と聞いたが、Sさんは「一緒にはならんかった。」
と言った。
「うまくいかんかったとよ。」とも言ったように記憶している。
なんだか日本昔話のようなはなしであるが、このようなことを隠しておけるはずもなく、
当時、島中の人が知っていたのではなかろうか。
私は後に「その若者はSさんだったのでは」と想像を膨らませた。
Sさんには隠し子があった。そのうしろめたい過去のせいか、相当な恐妻家であった。
初老になってついに奥さんに告白したが、奥さんは「あんたのことじゃから何かあると思っとった。」といい
「その子の結婚式には私も出席させてね。」
と云ったそうである。
昔、いわしが大量に獲れたとき、叺(かます)に塩付けにして詰め込み、土に埋めておいて保存食にした。
冬の間釣り餌にする為にどじょうをとってきて唐辛子を混ぜた水(唐辛子水)に入れておくといつまでも
生きていた等々、私はSさんから聞いた話を懐かしく思い出し、時々反芻してみる。
海や釣り、人情のこと、何でもたずねると答えてくれたが、Sさんはもう30年以上前に亡くなった。
おわり