日めくり開運カレンダー「日めくり君」



延岡の釣り、チヌ



五ヶ瀬川の河口付近は、日本で有数の魚の豊富な海といえるのではないか。

私は、この海域で砂利採取の仕事のかたわら、季節季節に訪れる魚を釣っては、食べたり、

釣果の多い時には市場に出して、小銭を稼いだりした経験から、そう思う。

魚種は豊富で、数え切れないが、なかでも、チヌとすずきは一年中釣れる。

チヌのなかに、ヒレの黄色がかったキビレチヌがいる。

これは味が良いが、数が少ない。

チヌの産卵時期はこの辺りでは2月頃である。この時期にチヌを釣ってみると、抱卵している。

春先、4,5月頃、潮の引いた干潟の浅瀬に、2cm程のフナと見まがうようなチヌの稚魚が、

群れ泳いでいる。

それを、これも3〜4cmほどの蟹がハサミを振りかざして待ちうけ、前を通りすぎるのを

目にも留まらぬ早業で仕留めているのを見たことがあった。

6月になれば、河口から上流1kmの汽水域に、1年子の、手のひら大のチヌが大量に入ってくる。

どの位大量かというと、川底にはチヌだらけという状態で、3〜4cmの生き海老をエサに

入れ食い状態となって、朝9時から正午の干潮までに約60匹の釣果を得たことがある。

私だけでなく、同じ時間帯に同じ場所で、90匹上げた人もいる。

場所は方財町と大武町に挟まれた水域で、引き潮の時間帯である。

このあたりでは「チン篭」と呼ばれるかごを水深3〜4mほどの魚の通り道に

沈めておき、チヌを捕獲する。

これは直径1m高さ60cmほどの篭に竹で編んだ、魚が入ったら出られないしかけを

作っておき、中に魚のはらわたを粘土で塗りつけてその匂いでチヌを誘い込むという

もので、地元の老人がいつも同じ場所に5個ほどしかけていたが、上げる時には

一個に2〜3匹は入っていたようである。

むろんこれは潮時、場所を計算した上で仕掛けるのであって、ただ置いておけば入るという

ものではない。

チヌの餌付けをした人がいる。

魚屋から魚の頭や臓物をもらってきて、潮時をみてに決まった場所にまきつづけた。

これは魚に警戒心をいだかせないように慎重に注意を払いながら行う必要があったが

ひと月ほどで30cmくらいの大物チヌがあつまってくるようになったのである。

その中にほかの魚はみあたらず、ほとんどチヌのみであった。

筆者は大武町の延岡港と東海町の間の川の中頃に浮かべた8m四方の鉄の箱船

に設置されたクレーンを運転し、砂利を採取する仕事をしていた。

以前漁師から「魚は黒みにつく」ということを聞いたことがある。

黒みにつくとは、船の陰、岩陰など暗い場所をこのんであつまる、といったようなことであろう。

漁礁や浮き漁礁は、魚を集めるのにこの習性を利用しているものであり、おなじように、

このクレーン船の底には満ち潮に乗って上流を目指す魚や、潮が下り始めると下流に向かう魚たち

が集まりやすいのである。

そこに近在の、漁師を引退した年寄りや、会社を退職し毎日釣りをして暮らしている人などが、

4m足らずの小船で集まってくる。

集まってくるといっても3〜4艘であるが、最初にきた船がクレーン船に舫(もや)い、あとの

船はお互いにロープでつなぎ合って並び、約60cm四方、深さ40cmの生簀(いけす)の中の

1.5cmから大きいもので3cmくらいの生きエビを小型のうちわのような網ですくい

パラリ、パラリ、と水面に撒く。

この生簀をのぞきこむと驚かされる。

何千匹もの半透明の小さな生きたエビが60cm四方、深さ40cmの塊(かたまり)となって

およいでいる。もちろん生簀の底はまったく見えない。

これを両手で掬うと、ピチピチとはねるエビが手の平の上でてんこ盛りとなる。


これは柴浸けと呼ばれるやりかたで獲る。

杉の葉や、竹の葉をたばねて川底に沈めておき、それを網ですくい、揺すると、その中に

もぐりこんでいるエビがバラバラと網の中に落ちる、たまにうなぎが出てくることもある。

多い人では100個も沈めているという。


そのエビの塊の中から大きめのを選び、腹のあたりに5号ほどの釣り針を無造作に突き刺し

これも無造作に、船端から1mていどはなれた水面に投げこむ。

この道具は1.5号のナイロン糸の3mくらいのに針を結んだだけの手釣りであるが、2mほどの

竹ざおを使う人もいた。

そのうち水面を小さなエビがとびはねるようになってくる。

水中で魚に追い回されて逃げ惑っているのである。

魚がエビを追って水面に姿を現すようになると、入れ食い状態になって、船上はいそがしい。

そうなってくるとエビのはずれてしまった空バリに喰いついてくることもある。

手の平大のエバ、40cmたらずのセイゴ(スズキの子)が多いが、たまに60cmのスズキも釣れる。

チヌも次々に釣れてくるのであるが、この魚だけは決して水面に姿を見せない。


「ウィッヒッヒッヒ、60円、60円」 一匹60円になるのであろう。セイゴを針からはずしながら

老釣り師はご機嫌である。

そのうち干潮時をすぎ、潮が満ちはじめると、いくらエビをまいても釣れなくなる。

エビを追って狂乱していた魚たちがパッタリと姿を消すのである。

釣り師の話では「大潮の干潮前が一番喰いが良く、干潮時をすぎるとなぜか餌を追わなくなる。」

ということであった。

この話を裏づける経験が筆者にもある。

台風がすぎた翌日の午前、カラリと晴れていたが、五ヶ瀬川河口は赤にごりの濁流であった。

小船で、テトラポットのわきを上流に向かってルアーを引いている時、60センチほどのスズキが釣れた。

船を下流に戻して、再び同じ場所を狙ってみるとまた釣れた。

これを何度もくり返し、その場所を6回通って、同じくらいの型のスズキを6匹釣ったのであったが、

その6匹のあとは、もう釣れなかった。

筆者の釣るのを見ていた人が、何人かルアーをもってかけつけたが、誰も、一匹も釣ることはできなかった。

干潮時をすぎていたからである。この日は大潮であった。

次の日も行ってみたが、もう水が澄んでいたからか、釣れなかった。ほかの人が一匹釣っただけである。

このような特別の好条件の下では、喰いの立つ、たたないが際だってわかるのであるが、

普段でも魚はこの習性にしたがっていることは間違いないようで、思い当たる例が何度もあった。

干潮から潮が満ちてきてしばらくするとまた喰いはじめるが、干潮前ほどではない。

チヌは用心深いが大胆な魚である。それだけ利口だといえる。

水にもぐり、チヌが満ち潮に乗って上流を目指すのを見ていると、まったく人間をおそれる様子はない。

河口から3.5km、須崎橋のあたりでチヌを観察すべく、水中眼鏡をつけて待ちうけていた。

水深1.5m、幅約10m、澄み切った淡水の、ゆるやかな流れをチヌが悠然と近づいてくる。

水中眼鏡を通してみる魚はかなり大きくみえるので寸法は割り引く必要があるが、25cmの大物を先頭に

大小5〜6匹の群れである。

筆者から2mばかりのところで、立ち止まり、流れに逆らい、わずかに尾びれを動かしながらじっとしている。

用意の竹竿を突き出しおどかしてみるが、わずかに身をひるがえし、かるくいなした後またじっとしている。

そのようすは、まるで「まだ上流を目ざしているんだ。邪魔をするな、はやくどいてくれ」

「あんたなんかに用はない」といっているようであった。

完全に無視された筆者はスゴスゴと水路のわきに移動し、道をあけた。

するとチヌの集団はあわてるでもなく、目の前をゆうゆうと通り過ぎていった。



延岡のチヌ釣り、仕掛け、えさ

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