木造 伝 馬 船

延岡の釣り、大鯛 (4.8k)


今日は穏やかな秋日和、テトラポットの、ゴツゴツとした長い列を右に見ながら、五ヶ瀬川河口を出ると進路

を左にとった。目指すは我が鯛釣りのホームグラウンド、島下灯台の南東1km付近である。

感激の鯛初釣から3年、かなりの数を上げたが、まだ大物と言えるほどのものは皆無で2kgが最大である。

最近では釣り上げた鯛を見て、大体何kgなのか10グラム単位で見当がつくようになっている。

それぞれ鯛の体形や色には違いがある。産卵期、のっこみの時期(サクラダイ)、産卵の後など季節にもよる

のであろうが、鮮やかな桜色ばかりではない。

そうこうしているうちに遠くに見えていた島毛灯台が眼前に迫ってきたのを見てエンジンを止めた。。

水深40m。海底には2〜3mほどの高さの小さな岩礁があるらしく、ときどき根掛かりすることがあった。

用意した仕掛けはびし間糸に3号ハリスを3尋、10号の丸鉛に7cmと5cmの糸に針を結んだ2本針

である。

これに体長3cm位のオキアミを房掛けに、針にかけられるだけなるべく多めにつける。

ハリスはびし間糸の重さとのバランスをを考えて、水深が深ければびし間糸の重量も増えるのでいく分長く

する。こうすることで底を取る時(鉛が底に着いたかどうか)や、あわせのタイミングがやりやすくなる。

仕掛けを水に投げ込み、手の平にびし間糸をすべらせながら伸ばしてゆき、鉛と針が底に着くころに糸を

上げ下げしてみる。

何度か繰り返すうち、鉛が海底を離れる時のかすかな重みを感じたら、用意の赤い糸を結び、目印とする。

1mほど引き上げ、2〜3手手繰り待つ、さらに2〜3手手繰っては下ろす。これを繰り返しながら少しずつ

穏やかな流れに任せて移動していく。今日はほとんど無風なので、風に逆らって艪(ろ)を漕ぐ必要が無い。

一投目にあたりがあった。グイッと餌をむしりとろうとするような短く鋭い引きである。すかさず2〜3手

たぐってあわせる。やりとりをするほどの大物ではないようだ。時々横に走ろうとするがどんどん手繰る。

下をのぞきこむと、薄赤い体に青い、紫がかった燐光の斑点を輝かせながら上がってきている。

手網ですくい上げ、肛門に少し覗かせた浮き袋を針の先でつつき、空気を抜く。

800gである。今日は幸先がいい。ボウズのときも多いし、エソばかりを持って帰ることも稀ではない。

「今日は釣れるかもしれんぞ。!!」この予感?はいつものことで、終わってみれば空振りと言うのが

多いのだったが、この日は違った。

期待に燃え、釣り始めのやる気満々、緊張感のとぎれるまでにはまだ間のあるひととき。

「んーっ!」指先に長く重いびし間糸をつたって、ユラリとなにかが伝わってくるのを感じて私はうめいた。。

何かが針先をなぶっている。餌のオキアミをなめている位の感触であるが、何かが餌に来ている。

全神経を指先に集中、脳内には釣り針の先端の様子がありありと描かれているのであったが、この微弱さで

はどうにも判断がつかなかった。

合わせをくれるきっかけがなかった。何かもっと「コツリ」とか「クイッ」といったような刺激がほしかった。

「一度ひきあげて餌の様子を見てみるか」とも考えるが、それでは今来ている魚を逃がすことに

なりかねない。

餌はたっぷり房掛けについている。量に不足は無い。ちょっとつついたくらいではなくなるはずもない。

もうしばらく待とう。きっかけがつかめるまで。

神経を研ぎ澄まして待つこと10分余り・・か?。しかし緊張はいつまでも保てないものである。

もうさすがに疲れてきた。

「自分の気の迷いかもしれない。」

「以前も根掛かりしているのを超大物と勘違いして 長時間格闘したことがあった。」

脳内はマイナス思考一色となりかかっている。

今の現実は妄想か、はたまた白日夢か、と、ボーっとなりかかっていたその時、指先にかすかな重みを感じ

たような気がしたのであろうとしか云えない。!!

無意識のうちに腕が動き、2〜3手、急激な合わせをくれていた。

糸が「グン」と伸びきる感触があり、これ以上は切れてしまうであろうところまで手繰ると手を止めた。

魚がかかっている。それも大物だ。

尾びれを煽りながら向こうむきに抵抗している、その揺らぎが糸を伝ってくる。

しばらくは彼我の均衡にまかせてそのままじっとしていたが、そろそろと引き揚げにかかる。

手の平で糸を握り締め、やんわりと手繰っていくと、すごい勢いで下に向かってはしりはじめた。

この場合は握り締めた手の平をゆるめ、少し抵抗を与えながら糸を繰り出していく。

魚は海底に着くと止まった。又そろそろと用心しながら引き揚げる。

「逃がしてなるものか。」針はがっちりとついているとは限らない。チョコッと引っかかっている

だけのことも多いので、無理をしてはそれが外れ、プツリと軽くなって肩を落とすことになる。

魚を手網に入れるまでは気を抜くわけにはいかない。

心臓の鼓動が「ダクン、ダクン」とはっきり聞こえ、「はあはあ」と喘ぐ自分の呼吸が、すぐ眼前に迫る

海面に反射してこだましている。頭からは湯気がたっていることだろう。

慎重なやり取りを何回繰り返したであろうか。

3mほどは上がってくるが、すぐに強烈な引きで底に潜る。

岩礁のあるほうに向かうのであろう。常に方向がきまっている。

その内だんだんと弱ってきて、上がってくる距離が長くなり、眼前4〜5mの場所にぽっかり

と浮かび上がった。腹の浮き袋が膨れていて、ユラユラと力なく泳いでいた。

針は2本針であったが、一本は口に、もう一本は鰓の辺りに刺さっていた。

魚体を横に引く形になっているのであの強烈な引きにも納得したが、口に掛かった一本だけだったら外れて

いたかもしれない。

長く同じ岩礁に居ついた鯛は色があせてくるらしく、黒ずんだ色をしていた。体長は丁度60cm、4.8kg

であった。

更新情報

  • 00/00:更新しました
  • 00/00:更新しました
  • 00/00:更新しました
  • 00/00:更新しました
  • 00/00:更新しました
  • 00/00:更新しました
  • 00/00:更新しました
  • 00/00:更新しました
inserted by FC2 system